2017年12月17日日曜日

学歴分断社会 [著]吉川徹

■大卒と非大卒に二分する境界線

 「格差社会」は現代日本を語るキーワードとなったけれども、格差とはなにか、それはどんな仕組みで生まれたのかが明確にされることはめったにない。本書は格差論バブルの陥穽(かんせい)を突き、大規模社会調査に依拠して、大卒層と非大卒層とを境界づける「学歴分断線」こそが、人々の経済的豊かさやチャンスとリスク、希望などにおける格差現象の正体であることを一貫して暴く。
 格差社会を読み解く視角として、下流社会論や希望格差論が主張され、学問的にも社会階層論や経済学的格差分析がすでに存在する。著者は学歴格差に着目するアプローチが、それらを含み込んだ包括的な説明枠組みとして優位にあることを、説得的に提示している。
 高学歴化と学歴競争によって特質づけられる昭和の学歴社会は、平成に入って様相を変えた。18歳人口は減少し、大学の門は広く開かれた。にもかかわらず大学進学希望率は50%程度で推移し続ける。著者はそこに平成学歴社会の、冷めた新しい局面を見いだす。大卒の親が子どもの大学進学を願い、高卒であれば子どもが高卒であってもかまわないと考える。こうした各家庭の進路選択が集積した結果、社会の真ん中に学歴分断線が引かれ、それが親から子へと受け継がれていく。これが平成日本が直面する学歴分断社会の現実である。
 では、学歴分断社会を、是正すべき不平等社会だと考えるべきだろうか。著者の解答はおそらく読者の意表を突く。たとえば「親子ともども大学に進学しない世代間関係が繰り返されることも……理不尽ではない」を読めば、タブーに触れると感じ、あるいは激しい怒りを覚える人が多いだろう。けれども、学歴による職業や報酬の差異に一定の業績主義的正当性を認め、同時に平等社会を実現しようとすれば、必ずこの地点にたどり着いてしまう。著者はいま自分がどこにいるのかを正直に語っているに過ぎない。読者にはぜひ一読してあっと驚いた上で、私たちがいまいる場所の風景をあらためて眺めてほしい。
 評・耳塚寛明(お茶の水女子大副学長・教育社会学)
    *
 ちくま新書・777円/きっかわ・とおる 66年生まれ。大阪大学大学院准教授。『学歴と格差・不平等』など。

2017年12月16日土曜日

サッカーという名の戦争―日本代表、外交交渉の裏舞台 [著]平田竹男

■知恵を絞り、徹底した情報管理

 日本サッカーがワールドカップやオリンピックの予選を突破し、世界の強豪と戦うためには、選手の活躍のほかに、試合の裏でも工夫をこらす必要がある。長距離の移動や時差、気象条件などを計算し、試合の開催地を交渉し、試合順などの交渉に知恵を絞るのである。試合は単なる抽選の結果ではない。
 いい対戦相手との練習試合を、過密スケジュールの合間をぬって入れるのも大事である。著者は日本サッカー協会で、国際的な試合を組む仕事を足かけ5年にわたって担当した。いい試合によって、チームは強化され、ファンも増える。
 かつてサッカー少年だった著者は、通産省で資源外交を担当した際、サッカー好きを通して人脈を切り開いたという。サッカー協会での仕事も外交であった。ホテルで作戦会議をする際は、ボーイに見られてもいいように白板に偽情報を書いた。徹底した情報管理に驚く。
 題名はサッカーは戦争と言っているが、実は、スポーツを通じた交流こそ友好に役立つパワーである、と結論づけられる。サッカーファンでなくとも楽しめる一冊である。
 小杉泰(京都大学教授)
     *
 新潮社・1365円

2017年12月15日金曜日

炭鉱太郎がきた道―地下に眠る近代日本の記憶 [著]七尾和晃

■五感を駆使して記憶の細部描く

 かつて炭鉱の坑内で働いた老人は、畳の上で腹ばいになったり中腰になったりして、蒸し暑い坑内での採掘作業の様子を熱心に著者に語る。炭鉱が閉山したあとの島に残った老人は、取材を終えた著者を「もう少しだけ」「もうちょっと先まで」と足をひきずりながら見送り、廃墟(はいきょ)の一つひとつを指差(ゆびさ)して、往時のにぎわいを伝える。
 そんなしぐさが見える。声が聞こえる。表情が浮かび、息づかいが伝わってくる。本書のなによりの魅力は、一人ひとりの抱く「記憶」の温(ぬく)もりをていねいに言葉にしてくれているところにある。
 1974年生まれの著者は、かつて炭鉱の坑内で働いて「炭鉱太郎」と呼ばれていた人々を尋ね歩き、彼らの現在と過去をたどっていく。全国各地から炭鉱マチに集まり、閉山とともに散り散りになった炭鉱太郎は、石炭産業の栄枯盛衰の語り部でもあるだろう。
 だが、本書は決して炭鉱の「歴史」のみを知るための一冊ではない。〈私はみずからが生まれる前の世界をみずからの五感で確かめてみたかった〉——だからこそ、著者は、炭鉱太郎やその家族たちの五感に刻まれた「記憶」に感応する。事故や争議、鉱害や差別といった負の「歴史」を直視したうえで、おおらかなたくましさや明るさに満ちた「記憶」のほうに、より強く、深く、惹(ひ)かれていく。
 長崎県高島の海底炭鉱で働いていた森下さんという人は、「暑いんですよ、あそこは」と言う。それを受けて、著者はこうつづける。〈これまで、そうした過酷な環境での労働を語り継ぎ、あるいはその苦労を訴える書物は多数、書き残されてきた。しかし、実際に海の底で石炭を掘っていた森下の口から、「海の底のほうが暑い」と聞かされると、そうした数多の書に綴(つづ)られた情景が生きたものとして感じられた〉。これこそがオーラル・ヒストリーの醍醐味(だいごみ)だろう。そして、自らの五感を駆使して「記憶」の細部を大切に描き込む著者の文章もまた、人々の話を〈生きたもの〉として読み手に届けてくれるのだ。
 評・重松清(作家)
   *
 草思社・1785円/ななお・かずあき 74年生まれ。ルポライター。『闇市の帝王』『銀座の怪人』など。

2017年12月14日木曜日

学歴格差の経済学 [著]橘木俊詔、松浦司

■データが物語る教育格差の拡大

 1970年代中葉から教育研究の領域に参入をはじめた経済学者たちは、教育を受けることがどれだけの収益を生むかを測定して、「学歴社会虚像論」を主張した。その中心的論者の一人小池和男氏は「日本が学歴社会であるという思い込みは、わが国のいくつかの自虐的な通念のひとつである」と喝破して、「学歴社会諸悪の根源説」を疑いなく信じていた人々に新鮮な驚きを与えた。
 それから三十余年。経済学者であるふたりの著者の課題意識は、基礎学力の低下による優秀な労働力の欠如と、親の社会的・経済的状況に由来する教育格差の拡大に向けられる。能力による差、公立と私立、理系と文系、中央と地方、名門校と非名門校など、格差が顕著な教育分野が取り上げられ、経済学的知見が示されている。
 大卒理系は文系に比べて生涯賃金が低いのはなぜか、など興味ある分析が目を引く。とりわけ本書の主題に即してもっとも意義深いのは、「親の社会階層が子どもの学歴に影響し、その学歴が年収を左右する」「年収1千万円以上の所得最上位層で子どもを私立小中学校に通わせている比率が際だって高く、2000年以降その傾向が顕著になった」ことなど、教育格差の趨勢(すうせい)を新しいデータで再確認している点である。
 過去に学歴社会虚像論から受けた衝撃を、本書から受けることはもはやない。それは本書が凡書だからではなく、「教育問題に経済学が貢献する」ことが当然視されるようになったためである。同時に、人格の完成や人間性にもかかわる教育の成果の中で、経済学が扱うことのできる経済的収益が表立って重視されるようになった——そういう時代の変化の反映でもある。
 親世代の結果の不平等(所得の格差)が子世代の教育機会の平等を阻害している。とすれば、両者の連関をどうやって断ち切ることができるのか。親世代の不平等をどの程度まで縮小すべきか。この問いに立ち向かう刀が、研ぎ澄まされた刀でありさえすれば、その学問領域は不問である。
 評・耳塚寛明(お茶の水女子大副学長・教育社会学)
     *
 勁草書房・2520円/たちばなき・としあき 同志社大学教授。まつうら・つかさ 中央大学助教。

2017年12月13日水曜日

ベーシック・インカム入門―無条件給付の基本所得を考える [著]山森亮

■夢物語でない無条件の所得給付

 「ベーシック・インカム」とは、一定の基礎的所得をすべての人に無条件で給付する制度のことである。そのように記すと半ば夢物語のようにも響くが、日本でも近年、給付型税額控除、つまり収入が一定以下の人には(税の徴収ではなく)“税の給付”がなされるという仕組みが議論されるなど、具体的な現実性が高まっている。
 本書はそうしたベーシック・インカムについて、その構想が市場経済の成立と同時期に生まれた起源に遡(さかのぼ)りながら、各国での様々な展開を丹念に追いつつ、基本となる論点を包括的にまとめたものである。取り上げられるテーマは「働くこと」の意味、福祉国家、家事労働とジェンダー、エコロジーやグローバル化との関係など多岐にわたる。加えて著者が、土地や住宅など「ベーシック・コモンズ」について論じている点も示唆的だ。
 現在のような「生産過剰」と失業の時代には、ベーシック・インカムは再分配と同時に資本主義の過剰にブレーキをかけ、非賃金労働やコミュニティーなど「市場を超える領域」の発展を促す契機にもなるだろう。いま広く読まれるべき本である。
 広井良典(千葉大学教授)
     *
 光文社新書・882円

2017年12月12日火曜日

中国の水環境問題 [編]中尾正義ほか/農民も土も水も悲惨な中国農業 [著]高橋五郎

■歴史上類のない深刻な荒廃の現実

 今日目覚ましい経済成長を続ける中国が環境悪化に苦しんでいる。破壊のスケールおよび質から見れば、その深刻さは歴史上類がない。
 環境問題を考える場合、自然科学的環境学と社会科学的環境学の二つのアプローチがある。中尾ほか編の著書は前者によるもので、日中の環境専門家の具体的な共同調査の成果である。ここでは河川(黒河流域と黄河流域)の水資源悪化、湖(太湖と雲南省ジ海)の環境汚染、長江(揚子江)の流域都市・鎮江における開発と環境アセスメント調査から、持続可能な発展の問題を考えている。節水奨励メカニズム、汚染河川の生態修復技術など対策も示されているが、現実には改善は容易でない。
 やや専門的過ぎるが、中国の水環境の現状と問題点を理解する上で大いに参考になる。
 高橋の著書は農業社会学の立場から、中国の土地も水も死に瀕(ひん)した状況にあり、人間自身の生命の危機にも及ぶ危険な環境破壊が進んでいると訴え、その要因を歪(ゆが)んだ社会政治関係を軸に論じている。救いようのない農民の現実は所有権のない土地制度、戸籍制度など、犠牲を強いられる歴史的構造に起因するが、さらに今日的問題もある。
 農村経済の発展を目指し、農業の大規模化、効率化を図った農業企業集団が各地で生まれ増殖してきた。それが「農業竜頭(ロントウ)企業」と呼ばれるもので、彼らは農民が唯一持っていた土地の使用権を地元の権力者と組んで安く買い、広大な農地を手に入れる。その上で使用権を失った農民を農業労働者として雇う。多くの竜頭企業は外資と組み、食品加工、輸出(日本は最大市場)など経営を広げ徹底的に安い賃金で膨大な利益を得ている。
 農民はもはや土地を愛さず、経営者も利益優先で農薬などは事実上規制されない。農民の自主的な組織も、自由な地域移動もない現実のままでは救いがないと主張する。農業・農村問題の専門家である著者が自分の足で多くの農村を訪れ、農民の声を直接聞き、ガチガチになった土に触れ、荒廃の現実を描写しているだけに説得力がある。
 評・天児慧(早稲田大学教授・現代アジア論)
    *
 勉誠出版・2940円/なかお・まさよし▽朝日新書・819円/たかはし・ごろう

2017年12月11日月曜日

都市美運動―シヴィックアートの都市計画史 [著]中島直人

■美の観点から都市計画を語り直す
 
 西欧の歴史都市と比べると、日本の都市はお世辞にも美しいとは言い難い。看板など屋外広告物の雑多さ、宙を走る電線の醜さは、誰もが指摘するところだ。
 原点は、都市計画法が制定された1919年にさかのぼる。その第1条で「交通、衛生、保安、経済等」の観点が強調された。そもそも日本の都市計画にあって「美」とは「等」の文字に収まる副次的な課題にすぎなかったのだ。
 しかし同じ時期に欧米のシビックアート思想を紹介、ひいては「都市美」を啓蒙(けいもう)する運動がまきおこった点が注目されている。昨年末から、酒井憲一『都市美協会運動と橡内吉胤(とちないよしたね)』(東京農業大学出版会)、中島直人ほか『都市計画家石川栄耀 都市探求の軌跡』(鹿島出版会)など、都市美運動の中核にいた専門家を再評価する研究書があいついで刊行された。美観への関心が、わが国でも、ようやくたかまりつつあるのだろう。
 都市美協会など諸団体の組織と運動に着目、その草創と頓挫にいたる顛末(てんまつ)を検証することで、「美」の観点から日本の都市計画を語り直そうとする本書も、問題意識を共有するところだ。今後、日本独自の「都市美」を獲得するためには、草の根の市民運動の広範な広がりと、粘り強い持続が不可欠であることを本書から学んだ。
 評・橋爪紳也(建築史家)
    *
 東京大学出版会・8820円

2017年12月10日日曜日

『鉄腕アトム』の時代 映像産業の攻防 [著]古田尚輝

■日本をアニメ大国にした一因
 
 今年は手塚治虫の没後20年だが、亡くなったとき、宮崎駿氏が、テレビアニメ制作者としての手塚を批判していたのが印象的だった。
 破格に安い制作費で日本初の連続テレビアニメ「鉄腕アトム」を請け負ったその結果が、いまだにアニメ制作現場を劣悪な環境にしている元凶だ、というのである。
 この非難は手塚自身が語っていることを元にしたものであり、後にアニメ研究家の津堅信之が『アニメ作家としての手塚治虫』(NTT出版)の中で「鉄腕アトム」の制作費は実際にはもっと高かったと論じている。
 それにしても、制作費の不足分をキャラクターの商品化権料で補うというやり方に無理があることは否めないというのが、これまでのほぼ一般的な見解だった。
 本書は大胆にその論に反駁(はんばく)し(通説である低制作費説に準拠しながら)、商品化に関連する他産業の参入、商品化展開に必要なキャラクター性が重要視される原作選定といった要素が、日本のアニメビジネスの原型を作り、それが日本をアニメ大国にした一因であると述べている。
 論文をまとめたものだけに読みにくさと、論点の散漫な部分が気になるが、この視点は斬新であり手塚再評価の新たなきっかけとなる可能性を秘めていると言えるだろう。
 評・唐沢俊一(作家)
   *
 世界思想社・2100円

2017年12月9日土曜日

社会的排除―参加の欠如・不確かな帰属 [著]岩田正美

■社会からこぼれ落ちる過程明らかに
 
 グローバリゼーションと脱工業化という新しい経済社会状況に移行する中で、古い福祉国家の諸制度が対応できない新しい社会問題が登場してきた。「社会的排除」概念の価値は、セーフティーネットからこぼれ落ちてしまう人々が出現する過程を説明し、問題を解決する方策を「社会的包摂」として明らかにしようとするところにある。
 フランス生まれのこの言葉は、いまやEU加盟国における社会政策上のキーコンセプトに育ったが、その意味は単純ではない。著者は、この概念の特徴をたくみに整理した上で、路上ホームレスとネットカフェホームレスを例に、日本社会のリアリティーに切り込む“社会的排除”の力を示してみせる。日本ではまだ実証的研究は多いとはいえないが、ホームレス以外にも障害者、女性、外国人移住者、いじめや虐待など、多様な社会問題の考察が可能である。
 ホームレスの事例研究は日本での社会的排除の形成に二つの形があることを教える。ひとつは、いったんは社会のメーンストリームに組み込まれた人々が、そこから一気に引きはがされるタイプ。失業、離婚と借金、病気など多様な要因が複合的に絡んで、一気に定点を奪う。ふたつめは、メーンストリームに組み込まれたことはなく、途切れ途切れの不安定就労のように、そもそも社会への参加が「中途半端な接合」に過ぎなかったタイプ。いずれも、20世紀日本で作られた社会保険や生活保護制度の網から漏れてしまっている。
 いまや海外では、社会的排除概念を使った社会問題の分析が、20世紀型福祉国家の所得保障システムから飛び出て、新しい福祉政策を生み始めているという。グローバリゼーションの中で日本だけが何もしないで社会の亀裂を回避できる保証はどこにもない。社会はその内部から社会に参加できない人々を作り出している。
 社会的包摂をめぐる議論の行き着く先は必ずしも鮮明ではない。しかし社会的排除概念の有効性を主張する本書のメッセージは、コンパクトで平明ながら力強い。
 評・耳塚寛明(お茶の水女子大学教授・教育社会学)
     *
 有斐閣・1575円/いわた・まさみ 日本女子大学教授。『戦後社会福祉の展開と大都市最底辺』など。

2017年12月8日金曜日

すごい本屋! [著]井原万見子

■小さな村のコミュニティーセンター

 この本を読むと、とても元気が出る。一言でいって、和歌山県の山の中で、小さな本屋さんが生き生きとがんばっている話なのである。村全体でも人口が2200人、近隣の集落はわずか100人ほどにすぎない。そんな小さな村で書店の経営が成り立つのかと不思議に思える。閉めかかった店を継いだ著者も、最初はとても不安に思っていた。
 そこから素人店長の奮戦が始まる。それを支えたのは、何よりも、店を必要とする地域の人びとのニーズである。ニーズは本だけに限らない。周囲の小売店がどこも廃業してしまうと、この本屋さんではみそや日常雑貨までも扱う。近所のおばあさんの生命線であり、コミュニティーセンターでもある。
 書店が成り立つ基盤は、本が好きな地元の人たちであり、子どもも大事な読書人である。そこで著者がイベントを次々と企画するのがすごい。学校での選書会、児童書の読み聞かせの会、絵本の下絵・原画の展覧会、絵本の編集者の講演会、ついには作者のサイン会まで。
 そんな企画は都会にしかないと思うのは大間違いで、編集者や制作者たちも、著者の熱意にほだされてしまうらしい。著者がドキドキしながら手紙を出したり電話をしたりして、次第に人脈を広げていく様子も心温まる。
 小杉泰(京都大学教授)
     *
 朝日新聞出版・1680円

2017年12月7日木曜日

創刊の社会史 [著]難波功士

■フラッシュバックする甘酸っぱさ

 創刊号には、独特のオーラがある。編集者の新雑誌に賭ける思いが詰まっているのはもちろん、その雑誌を世に誕生させた時代の空気が凝縮されているからだろう。
 本書は、主に1970年代以降に創刊された若者向けの雑誌を素材に、新雑誌の何を読者が受容していったのかを探ることで、この約40年の時代の息吹を検証した、若者雑誌による現代日本の生活文化史である。
 その生活文化史の斬新な分析はもとより、本書をより魅力的にしているのは、著者自身がフラッシュバックする時代の「甘酸っぱさ」である。自らを「創刊号フェチ」と称するだけあって、著者はマニアックに若者雑誌の創刊号を追いかけ、それらの雑誌群と格闘するわけだが、その格闘の一端をも赤裸々に紹介することで、筆者を通して時代感覚が見えてくる。神戸在住の著者が、「Popteen」創刊号を求めて、国立国会図書館など都内の図書館を疲弊しながら彷徨(さまよ)い、「いい歳(とし)してオレ何やってんだろう」と思うあたりも、生活文化のフィールドワーカーとしての面目躍如だ。創刊号のページをめくるときに浮かび上がる懐かしくも気恥ずかしい思いを、著者は「創刊号の悦楽」と呼ぶのであるが、文字通り、その「悦楽」を堪能できる一冊である。
 音好宏(上智大学教授)
     *
 ちくま新書・798円

2017年12月6日水曜日

失われた場を探して [著]メアリー・C・ブリントン

■ロスジェネ問題から見えるもの
 
 日本でバブル経済が崩壊した、1990年代に学校教育をおえた世代が、なかなか正規雇用の職にありつけない。この、いわゆるロストジェネレーション問題は、外からはどう見えるのだろうか。
 アメリカの社会学者が、丹念な調査を行ってまとめた本である。そこから浮かびあがるのは、むしろ、高度成長期から80年代までの日本社会を支えていた、特殊なしくみにほかならない。
 学校という「場」から、会社という「場」へ。年齢に応じて「場」の間を、順序どおりに移動するのが人生の標準型とされる。高校での就職斡旋(あっせん)や企業の終身雇用といった制度が、その「あたりまえ」さを保証していた。
 しかし90年代には、産業の中心が製造業からサービス業や小売・卸売業へと移り、他方で高卒者の正規社員としての採用が減った。その結果、学力水準の高くない高校を出た若者が、会社の「場」に安住する道は狭まってしまう。ニートやフリーターの増加の原因を、本書はここに見る。
 この変化をうけとめ、若者が、学校に必ずしも頼らず、自分で職を選ぶための感覚を磨くこと。そして周りの社会がそれを助けること。「場」の喪失がもたらした不透明さを語りながら、そこに新たな希望を、著者は見いだそうとする。
 評・苅部直(東京大教授)
   *
 池村千秋訳、NTT出版・1995円

2017年12月5日火曜日

アンデルセン、福祉を語る [著]G・エスピン−アンデルセン

■不平等を是正する家族政策を提案
 
 本書は、福祉国家に関する比較研究の第一人者が、フランスの一般読者向けに書いた書物の翻訳である。そう記すと既知の話題の再論かと想像してしまうが、本書の議論は以下のような刺激的な問題提起を多く含んでいる。
 第一に親から子どもへの「社会的相続」というテーマ。子どもの認知能力の基盤は小学校に入る前の段階でかなり決定されることが近年の研究で明らかになっており、それには経済的要因にも増して家庭環境の「文化」的要素(たとえば家にある本の冊数)が大きいという。こうした点から保育施設の質的充実など、北欧に代表される早い時期からの公的対応が、子どもにとっての「文化資本」の不平等を是正し、かつ社会全体の生産性を高める投資としても有効と著者は論じる。
 第二に「死は民主的でない」という指摘。たとえばフランスでは男性の管理職は工場労働者よりも5年以上長生きするので、結果として高所得層が年金や医療、介護などの給付のより大きな受給者となる。つまり「平等」のための制度がかえって格差を増幅させているわけで、著者は代案として平均寿命に応じた累進課税などを提起する。
 第三に「効率性」と「平等」の関係についての掘り下げ。たとえばデンマークの公的社会保障支出はアメリカのそれよりずっと大きいが、保育や医療に関する私的な支出も含めると両者の違いはほとんどなくなる。ならば市場より政府による対応のほうが、平等のみならず効率性の観点からもすぐれているのではないか。これら以外にも、現在の福祉国家に関する鋭角的な指摘が随所にあふれていて興味深い。
 一方、“投資としての社会保障”という視点の重要性を確認したうえでなお、著者の議論の持つある種の「生産主義」的な傾向には疑問も残る。現在の先進諸国における慢性的失業の背景には構造的な生産過剰があり、雇用拡大という方向には限界があるのではないか。労働時間削減やワークシェア、賃労働の相対化といったテーマに関する著者の議論も聞きたいと思う。
 評・広井良典(千葉大学教授)
   *
 京極高宣監修、林昌宏訳、NTT出版・1890円/G. Esping‐Andersen 47年デンマーク生まれ。

2017年12月4日月曜日

ハート・オブ・ザ・チーム [著]ビル・レスラー、ケイシー・マクナーズニー

■バスケットボールで人生を教える
 
 40年代後半生まれの著者ビル・レスラーはシアトル屈指の高校女子バスケットボール部のヘッドコーチ。90年代末まではチームも当人も無名の存在だったようだ。
 洒落(しゃれ)た装丁のこのノンフィクションは「私とは?」の章で始まり、個性派ぞろいの女子選手のフルネームを配した章、さらには昨今の日本と同様、危機介入辞さずの親たちの章へと続く。あろうことか後半の章では選手の妊娠という緊急事態まで発生する。
 そこには堅苦しい「教育」という語彙(ごい)が見当たらず、「エンパワーメント(任せて力づける)」「(才能を)分かち合う」といった共感に値する言葉が目を引く。諦(あきら)めない精神と斬新な戦術で“女バス”チームに初の大きな成功をもたらすが、「ライフ・レッスン」にこそ、勝利よりも大きな価値があるのだという。
 その好例が一軍選手12人で構成される「インナー・サークル」でのミーティング。ビルの発案によるもので、選手たち自らによる決断こそが将来彼女たちを素晴らしい人間にするレッスンの一つ、と彼は信じて疑わない。
 こんなユニークな指導哲学を持つ監督とぜひ一緒に——と思わせるのに十分な、バスケットボールと「人生勉強」との相互浸透。巻頭に付した一覧表「アメリカの学校制度」も気が利いている。
 (佐山一郎〈作家〉)
   *
 安斎儒理訳、boid・2100円

2017年12月3日日曜日

サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代 [著]下條信輔

■無意識の認知が社会のうねりを生む
 
 コカ・コーラはあらかじめブランド名を知って飲むと脳のある部分が活動するのに、ペプシだとさほど反応しない。ペプシは脳科学的にもブランド戦略に失敗している——そんな衝撃の研究が発表されたのは04年。人間の経済行動と脳の働きを結びつけるニューロエコノミクスは大流行し、一般向けの解説書も気軽に読める時代になった。
 人間の脳のクセがクリアに説明されるほど、しかし私たちはもやもやと居心地の悪さを覚える。すっきりわかりやすい脳の本の洪水に息苦しさを感じる読者は本書の眼差(まなざ)しに希望を見いだすだろう。著者単独書としては実に9年ぶりとなるが、その問題意識にブレはない。むしろ21世紀に入り現実性を増している。
 本書が目指すのはポランニーが〈暗黙知〉といった潜在認知、つまり私たちの無意識的な知覚と人間らしさのあり方だ。昨今の認知心理学は実験デザインのインパクトが人の興味を惹(ひ)きつけるが、本書ではそれらの面白みはさらなる思考へのきっかけである。これまでアーティストらとも対話を続けてきた著者ならではの論が展開されてゆく。
 ある作家が紅白歌合戦で漏らした一言の感想をきっかけに、著者は音楽の快の進化的起源から記憶や選好とのかかわりへ、そして産業やリアリティーの本質へと迫ってゆく。私たちの潜在的な認知や情動は社会のうねりを生み出すのだ。その大きな側面が政治・経済であり、他の側面が芸術や科学研究などの創造性(クリエイティビティー)だろう。米国に暮らす著者はメディアが放つ大衆誘導にも鋭敏だ。私たちはいかにそれらを受けとめ、いかに賢く自らの潜在的な情動で応ずるのか。個人と社会の間に広がる、いまだはっきりとは見渡せない潜在認知の沃野(よくや)へ、著者は一歩ずつ踏みしめながら進む。
 私たちの快から独創性の本質へと向かうその道筋は潜在的であるがゆえに多くの分野と繋(つな)がる。そのもやもやとした未来に希望や強さがあると、読了後に腑(ふ)に落ちる。著者と東浩紀氏との対論を収めた『環境知能のすすめ』(発売・丸善)も併読を勧める。
 評・瀬名秀明(作家)
    *
 ちくま新書・945円/しもじょう・しんすけ 55年生まれ。カリフォルニア工科大学教授(知覚心理学)。

2017年12月2日土曜日

子どもの貧困―日本の不公平を考える [著]阿部彩

■人生のスタートラインでの平等を
 
 子どもの貧困をテーマにする本が少し前から出されるようになっているが、本書は日本におけるその現状や課題を、国際比較を含めた多様な視点から実証的かつ包括的な形で分析し、なされるべき対応や政策を論じた本であり、わかりやすい文体とともに強い説得性をもっている。
 著者も指摘するように、子どもの貧困をめぐる状況は日本において十分認識されているといえない。たとえば(1)国際的に見た場合、日本の子どもの相対的貧困率はかなり高い部類にあり、特に母子世帯のそれは突出して高いこと(2)親の学歴と子どもの学力との間にはかなりの相関が見られ、その他様々な「貧困の連鎖」が存在すること(3)日本の子どもの貧困率は税・社会保険料の再分配によってかえって悪化していること、などの基本事実は、まず何より共通の認識とされるべきものだ。
 その上で、本書は「少子化対策」ではなく「幸せな子ども」を増やす「子ども対策」こそが必要とし、様々な具体的政策を提案する。著者自身も指摘するように、そうした方向への日本での社会的合意づくりには多くの困難が予想されるが、「人生のスタートライン」における平等という点は本来は合意がつくりやすい理念であるはずだ。本書を契機として活発な議論と対応が強く求められている。
 評・広井良典(千葉大学教授)
     *
 岩波新書・819円

2017年12月1日金曜日

日本で「一番いい」学校 地域連携のイノベーション [著]金子郁容

■与えられるのでなく作るものとして
 
 どうしたら日本で一番「いい学校」作りができるのか。そのための事例と理論を示すのがこの本の目的である。都会から過疎地までのいろいろないい学校の紹介、構造改革特区やコミュニティスクールなど関連する制度や理論の解説、学力テストをいい学校づくりに活(い)かすための方法——それらが、具体的かつ実践的に書かれている。
 本書の中にくり返し、「いい学校はいい地域にあり、いい学校を作ろうと学校と地域が連携することでいい地域も生まれる」というフレーズが登場する。この、地域連携を核とした改革論である点に本書の第一の特徴がある。いい学校は上から与えられるのではなく、共通の目的を持って「みなで一緒に汗をかく」ところに生まれる。
 第二に、コミュニティスクールなど「内から」の改革はもちろん、学力テストや学校選択制、学校評価など市場競争の導入を意味する「外から」の改革方策も同時に、活用すべきツールとして位置づけられている。つまるところ著者の提案は、従来の官僚制的問題解決(政府・行政が教育サービスの提供と管理を行う)への依存を改め、市場(外から)とコミュニティ(内から)による問題解決を進めようとするものにほかならない。
 いくつかの疑問が湧(わ)いてくる。市場競争導入の行く手にどんな学校が待っているのか、内からの改革と矛盾を来すことはないのか。社会資本に恵まれない地域がほんとうにいい地域に生まれ変われるのか。いい学校が実現できたとしても、それを継続・普及させる術(すべ)はあるのか。最後の点については社会起業論を参照しつつ、普及させる上でのポイントが示されている。
 なお議論すべき点は残る。だが、勝ち組と負け組の分断が進み家族や地域の結びつきが希薄化する状況に対し、現代に適したネットワーク活動を意図的に立ち上げて、社会のつながりをつけ直そうとする著者の志に誤りはない。そのためには行動を必要とする。本書は、行動に向けて立ち上がった人々を支援する、好著だと思う。
 評・耳塚寛明(お茶の水女子大学教授)
    *
 岩波書店・1995円/かねこ・いくよう 48年生まれ。慶応大学教授。『eデモクラシーへの挑戦』など。

2017年11月30日木曜日

「家族計画」への道―近代日本の生殖をめぐる政治 [著]荻野美穂

■避妊・堕胎めぐる意識変化を追う
 
 政府で少子化対策が叫ばれて久しいが、それが成功しているようには思えない。誰でも国家のために子供を生むわけではないのだから、人口の増減は政府の意図だけには左右されないのである。
 生殖をめぐる個々人の選択は、堕胎・中絶や避妊の禁止と容認をめぐる法律や社会体制に枠づけられている。しかし他方でその選択は、私的な性規範や家族観に基づいている。その点で本書は、単に人口政策史の域にとどまらないで、近代日本の避妊と堕胎・中絶をめぐる社会意識の変化を追跡したものだ。
 本書では、今日とは違う過去の様相も描かれている。たとえば明治期には、夫が避妊することを侮辱と感じる妻もあったという。第1次世界大戦後に産児制限運動が登場するが、多くの人には避妊と堕胎・中絶を区別する意識は乏しかったらしい。またその運動の指導者たちの間では、堕胎の容認論と否認論とが対立していた。
 今日のコンドーム中心の避妊法の普及は、1950年代の「家族計画」の運動によっている。その成功は主婦層の「家庭の幸福」願望と結びついたところに生じたものだった。生殖に関する人びとの価値意識は国家が必ずしも自由にできないものだが、それを系統的に追いかけようとしたユニークな本といえよう。
 赤澤史朗(立命館大学教授)
   *
 岩波書店・3570円

2017年11月29日水曜日

闘う社説―朝日新聞論説委員室2000日の記録 [著]若宮啓文

■貴重な1次資料、人間臭さも新鮮
 
 「今年の元旦の社説で、面白いものはあったかね」
 私がまだ学生だった20年以上前の話。正月明けの最初のゼミで、世論研究を専門とする教授からの質問である。元旦各紙の社説内容など記憶にない自分を棚に上げ、社説は世論をリードしているのか、そもそも社説は読まれているのかという疑問の方が大きくなった。社説が醸し出す敷居の高さ、読者との距離感の方が気になったのである。
 その社説とは、どのように作り出されるのか。02年秋から5年半にわたり、朝日新聞の論説主幹を務めた筆者が、その在任中を振り返りながら、社説生成の舞台裏を赤裸々に解き明かしたのが本書である。自衛隊のイラク派遣や首相の靖国参拝問題、憲法改正問題などで、どのような論議の末に「朝日」の社説が生まれ、それに対する他紙・誌からの反論・攻撃にどう向き合ったのかが率直に記述されていて面白い。その意味で、日本の「新聞」を論ずる際の1次資料となりうる書だ。加えて、ドキュメンタリータッチで描かれる論説室の様子からは、論説委員たちの人間臭さが垣間見え、日頃の「近寄りがたい」社説とは異なる新鮮な一面を教えてくれる。
 ただ、それらの主張を読者がどう受け止めたと認識していたのか。論説室の読者観は、もっと知りたいところだ。
 評・音好宏(上智大教授)
    *
講談社・1575円

2017年11月28日火曜日

森の力―育む、癒す、地域をつくる [著]浜田久美子

■人と自然、社会のあり方を展望
 
 「元気」を与えてくれると同時に訴えてくるものの大きい本だ。私たちと森との関(かか)わりを、「育つ」「つながる」「生み出す」「ひき継ぐ」という四つの大きな視点から、各地の具体的な試みや事例にそくして考えていく。取り上げられる話題は、森の幼稚園、森林セラピーと地域づくり、林業トレーナー、「大工塾」等々多岐にわたる。
 何より印象的なのは、登場してくる人々の語る生き生きとした思いや行動であり、この本はある種「社会起業家」の本ともなっている。また、森を接点として福祉・医療、環境、地域再生、林業等々がクロスオーバーしていく新たなうねりが浮かび上がってくる。
 一方で課題は山積しており、著者自身が問うているように、それは成長志向の中で森との関わりや様々な伝統を半ば以上捨ててきた戦後日本のありよう全体に関わるものだ。併せて、子ども期の「五感」の重要性、森林をめぐる学問のあり方、市民参加、伝統技術の継承など、「科学」の意味の問いなおしも本書を通底するテーマといえる。
 個人的には「鎮守の森」や山岳信仰といった話題も入れてほしかった気もするが、森という主題を通して、人と自然、地域、日本社会のあり方など大きな展望を同時に考えさせてくれる本である。
 評・広井良典(千葉大学教授)
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 岩波新書・777円

2017年11月27日月曜日

移民環流―南米から帰ってくる日系人たち [著]杉山春

■2つの国で居場所失うデカセギの現実

 本書によると、日本で働く日系ブラジル人にはドリフト愛好者が多いらしい。山道のカーブを、タイヤをきしませて車を走らせるレース、あれである。
 彼らの多くは、母国では月収300ドル程度だ。ところが日本に来ると、がんばれば月に30万円はかせげる。本国の10倍。そして周囲は消費財の洪水だ。中古車なら10万円で買える。不安定な身分を忘れ、車、テレビ、ビデオと、次々に購入する。
 ローンの返済のため、朝早くから夜遅くまで働かねばならない。子どもは学校に預けっぱなしで、教育やしつけの時間はない。子どもたちは日本語もろくにできず、いじめにあい、不登校になる。暴走族に加わり、犯罪に手を染めるものも出てくる。
 日本の外国人登録で、ブラジル人は中国人、韓国・朝鮮人に次いで3位、約30万人に達した。10年前の3割増だ。戦後の貧困に押し出されてブラジルに渡った移民の子どもたちが、還流した日本でふたたび鬼っ子のあつかいを受けている。
 著者はブラジルの彼らの出身の町や村を訪れる。長い出稼ぎから帰った人々は故郷で足場を失っており、働こうにも職がない。持ち帰った金が底をつくと、また日本に戻るしかないのである。
 ゆたかな日本で働いて金を貯(た)め、母国に家を建ててしあわせに暮らそう……。最初の夢はそうだった。しかし現実には、日本と母国の双方で居場所を失い、生活を崩壊させていく。この本は、そんな現実をきめ細かい取材でたどっていく。
 日本の経済は、外国人労働に頼らなければ立ちゆかなくなっている。経済の土台を支える彼らの生活が崩壊しかけているというのに、政府や企業はわれ関せずだ。地域社会の人々がボランティアで支えようとしているが、その力はあまりに小さい。
 不況のなか、単純労働者の切り捨てが始まった。最初に切られるのはこうした日系ブラジル人たちである。そんな状況で、彼らはどうなっていくのか。この本の続編が読みたくなる。
 評・松本仁一(ジャーナリスト)
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 新潮社・1575円/すぎやま・はる 58年生まれ。フリーライター。著書に『ネグレクト』など。

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